雑くらし手帖

26歳OLのしょうもない日々

まだまだノスタルジックにはなれない

まただ。

気付かぬうちに、浅い呼吸を繰り返していた。

 

近頃、深く息を吸えていない。

何かが自分の体内に溜まっていて、それらがいっぱいいっぱいになっている感じ。

空気が、身体全体に満足に行き渡っていない、循環が上手く行っていないような気がする。

 

人生はきっと、幸せな瞬間とそうではない瞬間とが交互にやってくるもので、心をどん底に突き落とすほどの出来事がある日突然降りかかってくることがある。

それは時に、頑張っても頑張ってもどうしようないものだ。

大好きな食べ物も音楽も絵画も本も、全く心に響いてこない、静けさとそれに伴う孤独感にずぶずぶと呑み込まれそうになる。

 

帰ろう。

 

「今日の夜、そっちに帰ってもいい?」

 

家族に手早くLINEを送り、仕事の帰りにそのまま実家へと向かった。

数ヶ月に一度しか帰らなくとも地元の駅はまだ私をヨソモノ扱いしていないようで、降り立った瞬間にノスタルジーな気持ちが猛烈に沸き起こる、なんてことはなかった。

いつもの道を、当たり前な顔をして歩く。

独り暮らしをしている今そのものが、曖昧になりかける。

 

家族は帰るたびに、予想以上に温かく迎え入れてくれる。

母は今回も、私の好物ばかり食卓に並べる。

妹は、学校での出来事や最近はまっているものなど、とにかく色んな話題を饒舌に語る。

お風呂、洗面所、トイレ、ベッド。

実家のありとあらゆる家具や物が、好きな匂いを纏って私を穏やかに受け容れてくれる。

 

家族仲は決して良い方ではなかった。

独り暮らしは、それが理由で半ば強引に始めたくらいだ。

自由、静寂、自力で生きているという感覚。

自ら望んで独りになって手に入れたものは、確かにある。

それでも、家族とそれを包む長年過ごした家に、救われる日もある。

 

ふいに、息を大きく吸う。

ゆっくりとゆっくりと、私の頭に身体に心に溜まったものたちを、吐き出していく。

 

まだまだ、頑張れる。

そんな気持ちがちゃんと形を持って私の中に存在していることを確かめて、自宅への帰路に就く。